2012年07月25日

印刷業界に衝撃!!なぜ胆管がん多発?

『安全と健康』2012年6月号より

●オフセット校正印刷の胆管がん死

 大阪のオフセット校正印刷のA社の元労働者が胆管がんを発症して死亡したという事件がマスメディアで大きく報じられ、社会的にも大きな波紋を投げかけています。作業環境測定事業を行っている東京安全センターにも印刷業者や産業医から、自社で使用している有機溶剤は大丈夫か、濃度測定は必要かといった問い合わせが相次いでいます。印刷業界に与えた衝撃は想像以上に大きいことが分かります。
 もともと校正印刷の胆管がん死の相談は関西労働者安全センターが受けていました。事態の深刻さからクボタショック(後述)のアスベスト被害究明に尽力した熊谷信二準教授(産業医科大学)に調査を依頼し、現在も原因究明と被害救済に取り組んでいます。
 熊谷氏の調査報告によれば、A社では元男性労働者(勤務歴8年〜11年)5人が胆管がんを発症し4人が死亡していました。通常の600倍という高い死亡率です。死亡者の発症年齢は25歳〜45歳と若く、入社から発症までの期間が7年〜9年と短い。実に痛ましい被害状況がみえてきます。いったいA社で何が起きていたのでしょうか。

●ジクロロメタン、 1,2ジクロロプロパンの大量使用

 オフセット校正印刷では刷り上がりの確認のために版を頻繁に交換します。その度にインクロールやブランケットの洗浄作業を行う。A社の作業場は地下1階にあり、校正印刷機が6台ありました。常時どこかの印刷機で版交換が行われていました。胆管がんを発症した5人が勤務していた時期に使用しいてたインクロールの洗浄剤は灯油、ブランケット洗浄剤にはジクロロメタン(第二種有機溶剤)、1,2ジクロロプロパンが含まれていました。日勤と夜勤の二交代制のため、発散した溶剤が作業場から排出されることもありませんでした。驚くべきことに、労働者には防毒マスクや手袋さえ支給されていなかったといいいます。
 熊谷氏は灯油や洗浄剤を大量に使用し、作業場に高濃度に発散したジクロロメタン、1,2ジクロロプロパンにばく露したことが原因で胆管がんを発症した可能性が高いと指摘しています。

●厚労省の一斉点検で漏れはないのか?

 事態への対応を迫られた厚労省は、A社に専門の調査員を派遣するとともに、印刷業界に化学物質による健康障害防止のための法令遵守を通知しました。今のところ胆管がんの発症と業務との因果関係は不明としながらも、全国561の印刷事業場に対する胆管がんに関する一斉点検を実施しました。7月10日、厚労省の発表によれば、一斉点検を取りまとめた結果、(1)胆管がんを発症した者がいるとする3事業場、3人(東京、石川、静岡)、大阪、宮城の事業場以外に複数の胆管がん患者が確認された事業場はなかった。(2)有機溶剤中毒予防規則の規制対象物質を使用していた事業場は494か所、何らの問題があったのは383か所(77.5%)、(3)外気と接していない地下室で作業を行っている事業場は無かった。地下室と同じような空間で作業を行っている事業場は9か所。(4)ジクロロメタンを使用している事業場は152か所、1,2−ジクロロプロパンを使用している事業場は10か所。厚労省としては、法令遵守の徹底、有機塩素系洗浄剤のばく露低減化の予防措置の指導、職業性胆管がんの相談窓口の開設、胆管がん発症の疫学調査の実施などに取り組むとしています。
 厚労省の発表を受け、小宮山厚労大臣は「大きな広がりはないのではないか」と発言しました。

●印刷業界に埋もれている胆管がんの実態究明を

 しかし、厚労省の一斉点検は561事業場に限定されており、零細な印刷工場などは漏れていると考えられます。また印刷技術の進歩でいまの校正作業はコンピュータで行われており、旧来の校正印刷業は軒並み廃業していると聞きます。これまで校正印刷に従事した労働者が胆管がん死した例がまだ埋もれているのではないかと疑われます。A社の事例を契機に、新たな職業がんとしての胆管がん死の実態を究明していくことが問われています。
 現在A社の6遺族・患者が労災請求し、宮城県でも印刷労働者2名が印胆管がんを発症し、労災請求しています。熊谷氏の調査に基づき、A社で発生した胆管がん死は労災認定されるべきです。
 ところがA社の遺族の中で、遺族補償請求の時効が成立している事案が4例あります。労災では労働者の死後5年が経過すると遺族補償請求が時効とされ、補償を受けることができません。しかしクボタショックを契機に、埋もれたアスベスト被害を隙間なく救済するために制定された石綿健康被害救済法(2006年施行)は、時効の壁を取り払い、5年以上前に亡くなった労働者の遺族に補償しています。胆管がんで死亡したA社の労働者遺族にも同様の措置により補償救済に道を開くべきです。(センター事務局長 I )
posted by かめいど at 19:53| 話題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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